熊本市の慈恵病院は、「こうのとりのゆりかご」の施設として有名である。「赤ちゃんポスト」という馬鹿げた呼称を誰が始めたかは定かではないが、慈恵病院にあるのは「赤ちゃんポスト」ではなく「こうのとりのゆりかご」である。知らない人はいないと思うが、端的に説明すると、育てることができない赤子を匿名で保護してもらえる施設である。
私がこれまでにしてきた話は、「産むべきではない」という話であって、いざ産んだ後にどうすべきか、という話はしていない。だから正直に言って、現実的に役に立つ話はしていない1。一方、慈恵病院はいざ産んだ後の問題に、本来的な病院の役割でもないのに現実に対応をしていて、私は心から尊敬する。
反出生主義思想家が慈恵病院の取り組みを賞賛することに違和感を覚える人もいるかもしれない。だが、反出生主義は産むことを否定する思想なのであって、間違っても、生まれた人間が死ぬことを推奨する類の思想ではないのだということは、『生まれないことと、死ぬことの違い』の記事で述べたとおりである。反出生主義は、いざ生まれた人間に対して、何の力もない2。だから、いざ生まれた人間を保護する取り組みをしている人は、尊敬に値するのである。
慈恵病院の取り組みに対して、「育児放棄を助長する」などと批判する馬鹿がいるが、預ける人は「ちゃんと避妊せず、ちゃんと中絶しなかった人」か、「レイプされた人」のように、そもそも子供を作る意思も育てる意思もなく出産した人がほとんどである。批判する馬鹿は、生まれた人間をその人の元に留めておく方が、より良い人生になる確率が高い、とでも考えていることであろうが、出産後死亡させ、逮捕される女性のニュースを見たこともないのだろうから、真面目に反論するのも無駄な作業だと言えるだろう。
ともかく、慈恵病院の取り組みは本当に頭が下がるものであるが、本来は国がやるべきことである。各都道府県に最低１箇所はこのような施設を設けるべきことである。国は少子化だとほざいておきながら、いざ生まれた人間を保護する活動すらしない。本気で少子化対策がしたいならば、慈恵病院の院長に大臣になってもらうよう、政治家は頭を下げてお願いしたらどうだろうか。
