世の中には、自殺者の苦しみに配慮しない者たちが本当に多い。
「親からもらった命を粗末にするな。」
「自殺するくらいなら仕事を辞めればいいのに。」
「人生一度切りなのに、自殺するなんて馬鹿だ。」
このようなものなら、まだ可愛いものである。
私がこれまでに見た、自殺者に対する言葉で、最も醜悪だった言葉は次のようなものである。
「自殺するくらいなら、私にその命をちょうだい。」
この言葉は、愛する夫と愛する幼い娘を持つ、余命わずかの若い母親患者の言葉である。
私はこの言葉を見たとき、なんと自己中心的な人間なのだろう、なんと他者に対する思いやりのない人間なのだろう、と激しい憤りを覚えた。
私はこの母親に言いたい。
「あなたの夫と娘が事故で死んであなた一人が残された場合も、あなたは絶対に自殺しないでね。」
自殺者の苦しみとは、このような苦しみなのである。
あるいは、結婚したくて何十年も積極的に婚活を行ったが、誰にも愛してもらえなかった孤独者の苦しみなのである。
この母親は、本当に運のいい人生を生きたのである。
この母親が言っていることを要約するとこうである。
「今まで幸せな人生を生きてきたから、これからも幸せに生きたい。人生を苦しんで生きている他人なんかどうでもいい。その人の命を私がもらって、これからも幸せに生きていきたい。」
このような自己中心的な人間が世の中に溢れているから、自殺者は自殺せざるを得ない状況となっているのである。死人に口なし、とは良く言ったものであるから、せめて私が代弁してやらねば本当に彼らが浮かばれない、と強く思ったことから筆を執ったしだいである。
自殺者の苦しみに配慮しない者たち
自殺論